2009年5月3日日曜日

万葉時代の職業

万葉集で出てくる用語で「人」で終わる用語は少なくとも40ほどありそうです。
その中で,職業を表すものをあげてみると,次のようになります。

網代人(あじろびと:漁業),海人(あま:漁業),海女(あま:漁業),歌人(うたひと:タレント),大宮人(おほみやひと:官僚),神の宮人(かみのみやびと:官僚),狩人(かりひと:狩猟),防人(さきもり:兵役),陶人(すゑひと:陶芸),杣人(そまびと:林業),舎人(とねり:下級官僚),飛騨人(ひだひと:大工),船人(ふなびと:水運),宮人(みやひと:官僚)

また,人では終わらないけれども職業を表すものとして,次のようなものが出てきます。

網子(あご:漁業),朝臣(あそ:官僚),漢女(あやめ:裁縫),大臣(おほまへつきみ:高級官僚),大山守(おほやまもり:管理された大きな山の番人),采女(うねめ:女官),水手(かこ:水運),里長(さとをさ:村の番人),左夫流子(さぶるこ:遊女),島守(しまもり:島の番人),織女(たなばたつめ:機織),津守(つもり:港の番人),時守(ときもり:時刻の番人),伴部(とものべ:兵役),野守(のもり:管理された野原の番人),船方(ふなかた:水運),道守(みちもり:街道の番人),畑子(はたこ:農業),公卿(まえつきみ:貴族官僚),山守(やまもり:管理された山の番人),宮女(みやをみな:女官),守部(もりへ:番人の統括部門),渡り守(わたりもり,渡しの番人)

漁業,農業,林業,水運,繊維業,陶芸,狩猟,大工,遊女,官僚,女官,兵役までいろいろ出てきました。
また,番人が多いことは,律令制度の法律やシステム(仕組み)を維持するために管理者が必要となったのだろうと想像します。
熱き恋路や日常生活のゆとりに対しそれら番人を邪魔と感じたり,番人が役目を果してくれない不満などの和歌が万葉集にはあちこちに出てきます。

山守の里へ通ひし 山道ぞ茂くなりける 忘れけらしも(7-1261)
やまもりのさとへかよひし やまみちぞしげくなりける わすれけらしも
<<山の番人が里へと通う山道の草が生い茂っている。お役目を忘れてしまったのだろうか>>

もちろん山守は彼氏の比喩で「最近来ないのは私のことを忘れてしまったから?」という恨み言の和歌のようです。
ちなみに,山守がちゃんと仕事をせず,山道が荒れてしまうことは当時よくあったのかも知れませんね。
社会全体の最適化(平均幸福感の最大化)を目指すことのひずみにより,個々の幸福感の最適化には必ずしも結び付かない。そんな思いも冗談ぽく和歌に託すことを万葉時代の日本人は覚えたのでしょうね。
さて,現代人にそういう和歌心までも希薄にさせてしまうのは,人間が社会の全体最適システムの最も効率的な一歯車(職業人)として,必要以外のコミュニケーションをせず,個々に閉じこもることを求められているためでしょうか。

0 件のコメント:

コメントを投稿