2015年10月25日日曜日

今もあるシリーズ「麻(あさ)(3:まとめ)」 …妻問では「麻生(をふ)の下草」がポイント?

「麻」の最後は男女の恋愛の和歌でどのように使われたか万葉集を見ていきましょう。
万葉集で恋愛の和歌はやはり詠み人知らずが多いですね。次もそんな女性の短歌です。

桜麻の麻生の下草露しあれば明かしてい行け母は知るとも(11-2687)
さくらをのをふのしたくさ つゆしあればあかしていゆけ はははしるとも
<<桜麻の麻が生えている庭の下草は露が降り始めているので,お泊りになってくださいな。おなた様が来られていることを母が知ったとしても>>

いいですね。こんな短歌を女性からもらいたいですね(もちろん妻には内緒で)。
当時は妻問婚であり,男性が女性の部屋に密かに忍び込んで床を共にする(夜這い)のが一般的だったようです。
そうであるものの,親が気づかないはずはありません。気づかないふりをしているだけです。
この短歌は,自分自身も気に入り,親も気に入り,親を正式に紹介したいという口実ですね。
こうすることで,正式な婚姻の成立へ向かうことができたのでしょう。
正式な婚姻が成立すれば,男性(夫)が夜這いをする場合も,親に知られないように気を使う必要がなくなります。
もちろん親は正式な婚姻が成立した後も,両親は夫が夜妻問に来ても完全に知らぬふりをするでしょうね。
さて,次は前の短歌のパロディか返事ともとれそうな男性作の短歌です。

桜麻の麻生の下草早く生ひば妹が下紐解かずあらましを(12-3049)
さくらをのをふのしたくさ はやくおひばいもがしたびも とかずあらましを
<<桜麻の麻が生えている庭の下草が早く生えていれば,あなたの下紐を解かずにいただろうに>>

さて,この短歌の意味を素直に考えると,麻の下に草が生えておらず露に濡れる心配が無かったので,あなたと共寝をしたのですよということになりそうです。
そうなると,当然帰りも露に濡れる心配はないので,事を終えると男はさっさと帰ってしまった状況が推測できます。
今回の妻問は行きずりの逢瀬であり,結婚までは考えていませんよという男の言い訳(返信)ともとれます。
ただ,相聞ならば,万葉集内でもっと近くに置いても良さそうですが,巻も違います。
パロディとすると,いろいろな解釈ができそうですが,「麻生(をふ)」は「生ふ」,「終ふ」と同じ発音になります。
以降は,みなさんの想像力の豊かさにお任せします。
最後は,上質の麻布を織るために,織り子達が切れ目なく作業する姿を序詞として詠んだ短歌です。

娘子らが績み麻のたたり打ち麻懸けうむ時なしに恋ひわたるかも(12-2990)
をとめらがうみをのたたり うちそかけうむときなしに こひわたるかも
<<娘子たちが織る麻用のたたり(絡垜)を使い,柔らかい打ち麻にするよう丁寧に織り続けるように,間無く恋い続けているのです>>

この短歌から,作者の恋する気持ちの切れ目の無さを表現したと解釈するよりも,私は麻布を織る作業に使う道具や手順を想像したくなります。
このことで,この時代にどの程度の織布の技術があったか,また繊維産業がどの程度専業化し,どんな人が担ってきたのかなどを知ることができそうです。
今も残る麻の衣服。1,300年もの間,日本人の身体を暑さ,寒さ,日光,汚れなどから守ってきたのです。
これからも,「麻布」は我々の身近で使われていくのでしょうね。
今もあるシリーズ「石橋(いしはし)に続く。

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