2009年8月26日水曜日

万葉集で難読漢字を紐解く(さ~)

今回からさ行に入りました。引き続き,「さ」で始まる難読漢字を万葉集に出てくることばで拾ってみました(地名は除きます)

榊(さかき)…常緑樹の総称。特に神事に用いる木を言う。
防人(さきむり,さきもり)…辺土の防衛兵士
細(ささら,さざれ)…小さい、細かい
銚子(さしなべ)…弦と注ぎ口のある鍋。さすなべ
小網(さで)…三角で袋状の網
核(さね)…まことに、ほんとうに
多(さは)…多いこと。あまた、たくさん
五月蠅(さばへ)…陰暦五月の頃の群がり騒ぐ蝿
囀る(さひづる)…かしましく言う。よくしゃべる
禁樹(さへき)…行方の妨げになる木
呻吟ふ(さまよふ)…嘆いてうめく。うめき叫ぶ
伺候(さもらふ)…様子をうかがい、時の至るのを待っている。命令を承るために主君の側近くにいる
鞘(さや)…剣や太刀のさや
晒す(さらす)…布などを水で洗い,日に当てて白くする
騒騒(さゐさゐ)…騒がしいさま
棹(さを)…船を進めるために用いる長い棒

次は,柿本人麻呂が詠んだ「騒騒(さゐさゐ)」が出てくる短歌です。

玉衣の騒騒静み 家の妹に物言はず来にて 思ひかねつも(4-503)
たまきぬのさゐさゐしづみ へのいもにものいはずきにて おもひかねつも
<<騒がしさが静まって 家の妻に別れの言葉も言わずに旅立ってしまい 恋しく思う気持ちを抑えることができない>>

人麻呂は日本の各地を廻り和歌を詠んでいます。この短歌は,旅先で家に残した妻を恋しく思う気持ちをストレートに詠んだ短歌3首の内3番目のものです。
人麻呂が旅立つとき見送りがきっとたくさん来ていたのでしょう。
人麻呂を見送る人々か,人麻呂がお供する高官を見送る人々か分かりませんが,たくさんの見送り人との別れの挨拶などで大変忙しく,かつ騒がしい旅立ちだったと思われます。
そんな状況で,この旅立ちでは人麻呂は妻(おそらく依羅娘子)と別れを惜しむ時間もなく旅に出てしまわざるをえなかったのかもしれません。
旅路を進むに従って見送る人がだんだん少なくなり,静かになってくると,別れを惜しむ時間がたくさん取れなかった妻を恋しく思う気持ちが抑えられなくなる。この気持ちは本当によくわかりますよね。
今と違って,旅立った後,旅先で病になる,遭難する,賊に襲われるなどで帰らぬ人となることが頻繁にあった時代ですから,旅立ちに別れを惜しみたいという気持は強かったのだと思います。

ところで,私は新幹線や飛行機を使った日帰り出張を会社から結構命ぜられます。新幹線や飛行機は速いですからその分遠くでも日帰りが可能です。結局朝はいつもより早く家を出て,帰りはいつもより遅くなることがほとんどなのです。
そのようなとき,10数年前のサラリーマン川柳でベスト1になった「まだ寝てる 帰ってみれば もう寝てる」という状況です。
日本国内で新幹線などの移動は非常に安全であり,万一の場合でも保険制度,保障制度,弁護士サービスの充実などお互い心配することは何もありません。安心しきっているからでしょう。
それはそれで他の国には少ない非常に有り難い平和な社会なのですが,そんな状態じゃ新幹線や飛行機の中で「恋しく思う気持ちが抑えられなくなる」ことが考え辛く...。

 天の川「そんなこと書いてると,たびとはんのお家でまた『騒騒(さゐさゐ)』になりまっせ!」

おっ,そうか,気をつけよう。(「し」で始まる難読漢字に続く)

0 件のコメント:

コメントを投稿