万葉集の巻11,巻12の序詞で地名がで来る短歌の紹介を続けます。
今度は現在の大阪府にある地名を序詞に入れて詠んだ短歌です。
茅渟の海の浜辺の小松根深めて我れ恋ひわたる人の子ゆゑに(11-2486)
<ちぬのうみのはまへのこまつねふかめて あれこひわたるひとのこゆゑに>
<<茅渟の海の浜辺に生えている小松の根が深く根を張っているように,私の恋は密かに深まるばかりだ。彼女はまだ幼いから>>
茅渟の海の浜辺は大阪市から堺市にかけての海岸と言われています。
ここには,防風または防砂を目的に松が植えられいたのでしょう。
松は,砂に根を張っただけでは倒れいしまうので,出ている部分はまだ小さくても,根は思いのほか深く張っていることを作者は知っていて,自分の気持ちを松にたとえと考えても良いでしょう。
また,松は待つにつながるため,作者は彼女の成長をひたすら待っている気持ちも感じ取れそうです。
次は,今の大阪市の南部にあった住吉(すみのえ)の地名を使った序詞の例です。
住吉の津守網引のうけの緒の浮かれか行かむ恋ひつつあらずは(11-2646)
<すみのえのつもりあびきのうけのをの うかれかゆかむこひつつあらずは>
<<住吉の港の管理者が網を引くときに使う浮きの紐が一緒に浮くように,ただ浮くままにしよう。これまでのひたすら恋しい気持ちを捨てて>>
住吉の港は万葉時代賑やかな定期船や漁船が停泊する港だったのでしょう。
ちゃんと港の管理人(津守)がいて,網を張っていたようです。
この網は,浮きを付けて網を海中に縦に張り,魚を捕獲する定置網か,津守の役目からは港内の場所を使用目的によって分けるために張られたのかも知れません。
浮きの材料は,軽い木,木の中をくり抜いて蓋をしたものなど,いろいろ考えられますが,どんな浮きだったのか興味が尽きません。
さて,次は大阪府の北側の地にあるといわれる山川を序詞に使った短歌です。
しなが鳥猪名山響に行く水の名のみ寄そりし隠り妻はも(11-2708)
<しながどりゐなやまとよにゆくみづの なのみよそりしこもりづまはも>
<<しなが鳥といえば猪名山だが,その山に響きわたる水のように超有名なのに姿を見せることがない>>
「しなが鳥」は枕詞で現代訳として訳さない本もありますが,私は枕詞といえどもそこに書かれている以上,できるだけ訳に入れています。
「猪名」という地名は万葉時代にまったく名の知られていない場所ではなかったようです。
今も兵庫県・大阪府を流域にもつ「猪名川」沿いに開けた集落がたくさんあります。万葉時代から,農耕,炭焼き,猪(イノシシ)の狩猟などをして暮らしていた人々がたくさんいたと私は思います。
「猪名川」は非常に流れが速く,豪快だとのうわさも京(平城京)に来ていたが,奈良からは遠いので,なかなか京人は行けない場所にあるので有名だったと私は推測します。
天の川 「たびとはん。本当は,そんな噂の立つのは,どんだけ超かわいい娘が想像してんのとちゃうか?」
そっちのほうは地名と違って当時の女性と今の女性との比較がほとんどできないので,あきらめるしかないかな?
ところで,巻12にも大阪にある地名を序詞に入れて詠んだ短歌があるので,次回も「天の川君」のたぶん出身である大阪でいきますか。
(序詞再発見シリーズ(10)に続く)
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