2014年2月23日日曜日

動きの詞(ことば)シリーズ…告ぐ(3:まとめ) 無理でも告げて!

万葉集での「告ぐ」の用法として,前々回の山背王の短歌のように和歌の最後に「告げこそ」という言い回しで終わる歌が多くあります。これは手紙の最後に「よろしくお伝えください」といった決まり文句のようなものだったのかもしれません。
いくつかの例を示します。

我妹子と見つつ偲はむ沖つ藻の花咲きたらば我れに告げこそ(7-1248)
わぎもことみつつしのはむ おきつものはなさきたらば われにつげこそ
<<今度は妻と一緒に見にきて,「本当にきれいだなあ」と感じ合いたい。今度沖の藻の花が咲いたら私に知らせてくださいな>>

この短歌は,柿本人麻呂歌集に出てくる詠み人知らずの羈旅の歌です。作者は透明度の高い美しい海岸に来て,たまたま海草(アマモかも?)の花が咲いているところを見て,その美しさから,今度は妻と着たいから,咲いたら告げて(教えて)欲しいと詠っているのでしょうか。当時,1日2日でそういった知らせを伝える手段はないでしょうから「無理を承知で告げて欲しいほど美しい」といいたいのだと私は感じます。
次も詠み人しらずの羈旅の短歌です。

妹が目を見まく堀江のさざれ波しきて恋ひつつありと告げこそ(13-3024)
いもがめをみまくほりえの さざれなみしきてこひつつ ありとつげこそ
<<妻に目を見たい(逢いたい)。堀江のさざ波よ,おまえが繰り返し繰り返し寄せてくるように俺の恋しい気持ちが積み重なっていることを妻に告げてくれ>>

何を見ても家にいる妻が恋しくて仕方がないという雰囲気が伝わってきます。妻は家の近くには堀江があったのかもしれませんね。
次は,大伴坂上郎女が詠んだ相聞歌の中の1首です。

暇なみ来まさぬ君に霍公鳥我れかく恋ふと行きて告げこそ(8-1498)
いとまなみきまさぬきみに ほととぎすあれかくこふと ゆきてつげこそ
<<ホトトギスよ,忙しいといって来ないあの人へ,私がこんなに恋しがっていると今すぐ飛んで行って教えてあげて>>

この短歌から,一人淋しく夫の妻問を待つ郎女の気持ちが私には素直に伝わってきます。ただ,この短歌もホトトギスが自分の気持ちを夫に伝えてくれるはずがないのは分かっていて,それでもそれを頼みたくなるくらい淋しい気持ちだと訴えたいのでしょうね。
このように「告げこそ」の短歌を見てくると,自分の気持ちを伝える(告げる)努力が自分にはまだまだ足らないと私は感じてしまいます。私の妻に対して,自分の気持ちを十分伝えていないのではないかと反省しています。

天の川 「ほんまにか~? この前,奥さんにたびとはんがメールで『愛してる』って出したら『メールアドレスの間違いではないですか?』って返信されたそうやんか。」

天の川君! 誤解されるような表現はやめなさい。これで,ちゃんと伝わっているです。たっ,たっ,多分ね。
え~と。これで「動きの詞(ことば)シリーズ」の「告ぐ」は終わりとします。
なお,来週から何回かは「動きの詞(ことば)シリーズ」はお休みし,「本ブログ6年目突入スペシャル」をお送りします。
本ブログ6年目突入スペシャル「万葉集の多様性に惚れ込む(1)」に続く。

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