万葉時代建物,船,橋などに多くの木の板が使われていたことが万葉集の和歌からわかります。
特に建物の屋根や出入り口の戸は,当時木の板で作られていたことが想像できる(大伴家持が紀郎女に贈った)1首を紹介します。
板葺の黒木の屋根は山近し明日の日取りて持ちて参ゐ来む(4-779)
<いたぶきのくろきのやねは やまちかしあすのひとりて もちてまゐこむ>
<<屋根を葺く板の材料となる黒木(皮付きの板にする原木)は,私が住んでいるところが山に近いので明日にでも取りに行って持ち帰ってきましょう>>
この短歌は紀郎女に贈った5首の1首ですが,「貴女のためなら,木を切り倒す,薄い板に加工する,屋根を葺くまで,なんでやりまっせ」くらいの家持の勢いですね。家持がまだ若いときにかなり年上の紀郎女にお熱をあげた様子が分かります。
さて,次は板でできた戸を詠んだ詠み人知らずの東歌を紹介します。
奥山の真木の板戸をとどとして我が開かむに入り来て寝さね(14-3467)
<おくやまのまきのいたとをとどとして わがひらかむにいりきてなさね>
<<無垢の木で作った板戸をトントンと合図を送ってくだされば,私は戸を開きますから,入ってきて一緒に寝ましょう>>
夜妻問いのために男性は相手の女性の家に行きます。事前に妻問いすることを歌のやり取りで約束した二人,別の男が来たときは戸を開けないようにお互いの合図を取り決めているような1首ですね。妻問いの作法を教えている歌のようにも思えます。
さて,最後は神を近くに導く板の材料(杉)を題材に恋しく思う気持ちを詠んだ詠み人知らず短歌です。
神なびの神寄せ板にする杉の思ひも過ぎず恋の繁きに(9-1773)
<かむなびのかみよせいたにするすぎの おもひもすぎずこひのしげきに>
<<神を近くに呼び寄せる板に使われている杉のように,私の思いは「すぎ(杉)去っていないもの」と忘れられずにいます。あまりにも恋しい気持ちが強いため>>
当時,杉の板は神事に使われるほど,良い香りがして,高級な板だったのかもしれません。
さて,板はそのほかにも,さまざまな囲いや仕切りに使われた可能性があります。奈良時代のそういった囲いや仕切りをめぐらした垣(かき)について,万葉集をもとに見ていきましょう。
今もあるシリーズ「垣(かき)」に続く。
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