前回までの「立つ」は多くの意味を持つ言葉でしたが,「匂(にほ)ふ」もなかなかいろいろな意味を持つ言葉です。
現在では,「臭う」のイメージがつきまとい,話し言葉ではあまり良いイメージの言葉になっていないのかも知れません。
しかし,万葉集から推測するに万葉時代では臭覚で感じる匂いだけでなく,もっと広い意味で使われているようです。
たとえば,ある色に染まることやその色に似合うことを「匂ふ」の表現を使って表したり,鮮やかな色が美しく映える状態を「匂ふ」と呼んだり,生き生きとした美しさなどが溢れる姿を「匂ふ」とも表現しました。
まず,今回は「匂ふ」を詠んだ,どれもあまりにも有名な短歌3首を紹介します。
紫の匂へる妹を憎くあらば人妻故に我れ恋ひめやも(1-21)
<むらさきの にほへるいもを にくくあらば ひとづまゆゑに われこひめやも>
<<紫色が美しくお似合いの貴女が憎らしいと思ったとしても,人妻であることが理由で私が貴女を嫌うことがあるでしょうか>>
あをによし奈良の都は咲く花の匂ふがごとく今盛りなり(3-328)
<あをによし ならのみやこは さくはなの にほふがごとく いまさかりなり>
<<奈良の都は満開の花のように美しく活気が溢れて,今は本当に栄えていますよ>>
春の園紅匂ふ桃の花下照る道に出で立つ娘子(19-4139)
<はるのその くれなゐにほふ もものはな したでるみちに いでたつをとめ>
<<春の庭園で桃の花が照らす下道に立っている紅色がよく似合う娘子たちよ>>
1首目は大海人皇子が蒲生野で額田王に向け詠んだ歌,2首目は小野老が筑紫で大伴旅人に向け詠んだ歌,3首目は大伴家持が越中で詠んだ歌です。
「匂ふ」がいかに良いイメージの言葉だったかをこれらの短歌を鑑賞して分かって頂けると思います。
私も落ち着いた色のジャケットが「匂ふ」(似合う)ようなセンスを持ちたいものです。
天の川 「たびとはん。その前にあんたの加齢臭何とかせ~へんとあかんのとちゃう?」
匂ふ(2)に続く。
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