本シリーズの4番目として「笑(ゑ)む」を取り上げます。
「笑む」とは,万葉集では「にこにこする」,「ほほえむ」,「花が咲く」という良いイメージで使われているようです。
まさに弥勒菩薩半跏思惟像などのいわゆるアルカイックスマイルは,「笑む」のひとつの典型だったのかも知れません。
しかし,現在では「あざ笑う(嗤)」「失笑する(哂)」も「笑」という字を使って表現することも多く,ネガティブなイメージで「笑」を用いる場合があります。
万葉集の和歌には,「笑む」以外に「笑む」の熟語や名詞形として次のようなものが出てきます。
下笑む(心の中で嬉しく思う。)
花笑み(花が咲くこと。蕾がほころびること。)
笑ます(「笑む」の尊敬語)
笑まひ(にこにこ笑うこと。ほほえむこと。)
笑まふ(「笑まひ」の動詞形)
笑み(「笑む」の名詞形)
笑み曲がる(笑って相好をくずす。)
笑ら笑ら(楽しみ笑うさま。)
さて,次は「笑む」と「怒る(いかる)」の両方が出てくる万葉集の詠み人知らずの短歌です。
はね鬘今する妹がうら若み笑みみ怒りみ付けし紐解く (11-2627)
<はねかづら いまするいもが うらわかみ ゑみみいかりみ つけしひもとく>
<<髪飾りを今もしている新妻はまだうら若いので,ほほ笑んだり怒ったふりをしてみたりして妻の衣服の紐を少しずつ解いていく>>
この短歌が表現している状況はみなさんの想像にお任せします。1300年ほどの前の短歌です。
万葉集が勅撰和歌集だったらまず選ばれない短歌でしょうね。
万葉集の選者も,この短歌の作者が分かっていたとしても詠み人知らずの巻に入れておくのが良いと考えたのかもしれません。
また,源氏物語「葵」の巻で光源氏が紫の上と新枕をともにする近辺の描写と類似性を私は感じました。(右は土佐光起筆。WIKIMEDIA COMMONSにアップロードされたものを引用)
天の川 「たびとはん。こんな経験羨ましいと思うてんのとちゃいまっか? でも,甲斐性ないさかい無理やろな。」
天の川君,「甲斐性がない」は余計なお世話だね!
だけど,この「紐解く」の短歌も男にとってある種の願望を表わすフィクションかも知れないなあ。
笑む(2)に続く。
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