今回からさ行に入りました。引き続き,「さ」で始まる難読漢字を万葉集に出てくることばで拾ってみました(地名は除きます)
榊(さかき)…常緑樹の総称。特に神事に用いる木を言う。
防人(さきむり,さきもり)…辺土の防衛兵士
細(ささら,さざれ)…小さい、細かい
銚子(さしなべ)…弦と注ぎ口のある鍋。さすなべ
小網(さで)…三角で袋状の網
核(さね)…まことに、ほんとうに
多(さは)…多いこと。あまた、たくさん
五月蠅(さばへ)…陰暦五月の頃の群がり騒ぐ蝿
囀る(さひづる)…かしましく言う。よくしゃべる
禁樹(さへき)…行方の妨げになる木
呻吟ふ(さまよふ)…嘆いてうめく。うめき叫ぶ
伺候(さもらふ)…様子をうかがい、時の至るのを待っている。命令を承るために主君の側近くにいる
鞘(さや)…剣や太刀のさや
晒す(さらす)…布などを水で洗い,日に当てて白くする
騒騒(さゐさゐ)…騒がしいさま
棹(さを)…船を進めるために用いる長い棒
次は,柿本人麻呂が詠んだ「騒騒(さゐさゐ)」が出てくる短歌です。
玉衣の騒騒静み 家の妹に物言はず来にて 思ひかねつも(4-503)
<たまきぬのさゐさゐしづみ へのいもにものいはずきにて おもひかねつも>
<<騒がしさが静まって 家の妻に別れの言葉も言わずに旅立ってしまい 恋しく思う気持ちを抑えることができない>>
人麻呂は日本の各地を廻り和歌を詠んでいます。この短歌は,旅先で家に残した妻を恋しく思う気持ちをストレートに詠んだ短歌3首の内3番目のものです。
人麻呂が旅立つとき見送りがきっとたくさん来ていたのでしょう。
人麻呂を見送る人々か,人麻呂がお供する高官を見送る人々か分かりませんが,たくさんの見送り人との別れの挨拶などで大変忙しく,かつ騒がしい旅立ちだったと思われます。
そんな状況で,この旅立ちでは人麻呂は妻(おそらく依羅娘子)と別れを惜しむ時間もなく旅に出てしまわざるをえなかったのかもしれません。
旅路を進むに従って見送る人がだんだん少なくなり,静かになってくると,別れを惜しむ時間がたくさん取れなかった妻を恋しく思う気持ちが抑えられなくなる。この気持ちは本当によくわかりますよね。
今と違って,旅立った後,旅先で病になる,遭難する,賊に襲われるなどで帰らぬ人となることが頻繁にあった時代ですから,旅立ちに別れを惜しみたいという気持は強かったのだと思います。
ところで,私は新幹線や飛行機を使った日帰り出張を会社から結構命ぜられます。新幹線や飛行機は速いですからその分遠くでも日帰りが可能です。結局朝はいつもより早く家を出て,帰りはいつもより遅くなることがほとんどなのです。
そのようなとき,10数年前のサラリーマン川柳でベスト1になった「まだ寝てる 帰ってみれば もう寝てる」という状況です。
日本国内で新幹線などの移動は非常に安全であり,万一の場合でも保険制度,保障制度,弁護士サービスの充実などお互い心配することは何もありません。安心しきっているからでしょう。
それはそれで他の国には少ない非常に有り難い平和な社会なのですが,そんな状態じゃ新幹線や飛行機の中で「恋しく思う気持ちが抑えられなくなる」ことが考え辛く...。
天の川「そんなこと書いてると,たびとはんのお家でまた『騒騒(さゐさゐ)』になりまっせ!」
おっ,そうか,気をつけよう。(「し」で始まる難読漢字に続く)
2009年8月26日水曜日
2009年8月16日日曜日
万葉集で難読漢字を紐解く(こ~)
引き続き,「こ」で始まる難読漢字を万葉集に出てくることばで拾ってみました(地名は除きます)
扱く(こく)…しごく。しごいて掻き落とす。
凝し(こごし)…ごつごつしている。険しい。
幾許(こぎた,ここだ,ここば)…こんなに多く。こんなに甚だしく。
悸く(こころつごく)…心がおどる。動悸がする。
甑(こしき)…米や芋などを蒸すのに用いる器
去年(こぞ)…昨年
木末(こぬれ)…木木の若い枝先
蟋蟀(こほろぎ)…コオロギ
肥人(こまひと)…九州球磨地方の人
木群(こむら)…木が群がり茂った所
薦(こも)…マコモ
臥やす(こやす)…横になる、休むの尊敬語
嘖らる(こらる)…怒られる。叱られる。
樵る(こる)…木を伐る。きこる。伐採する。
さて,次は山上憶良が詠んだ有名な長歌・貧窮問答歌で甑(こしき)が出てくる部分です。
~竈には火気吹き立てず 甑には蜘蛛の巣かきて 飯炊くことも忘れて~(5-892)
<~かまどにはほきふきたてず こしきにはくものすかきて いひかしくこともわすれ~>
<<~竈には火をいれることもなく,甑には蜘蛛の巣が張って,ご飯を炊くことも忘れ~>>
憶良はこの和歌で「甑は使われず蜘蛛の巣が張っている」などの表現を使い,暖かいご飯を炊いて食べることがずっとできず,飢えをしのいでいる一家の苦しい状況を具体的に示しています。
さらに,この長歌の最後の部分では戸籍を管理している里長が,このような暮らしを余儀なくされている家族にも「短いものをさらに切り刻むように」容赦なく税の取り立てを行うことが詠われています。
当時の大和政権は,日本が諸外国(中国,朝鮮半島など)に負けない強い国にするため,中央集権体制である中国の律令制度を急速に導入しようとしました。明治維新と似ている部分もあるのかもしれません。
その体制を維持するために人頭税賦課を徴収し,その財を基に多くの官僚や軍隊を抱え,政(まつりごと)や国防に専念できるようにしたのです。
しかし,律令制度が完成し,庶民の生活を豊かにするには時間を要します。その間,多くの人には先に税が負担となります。
また一見公平のように見える人頭税賦課は,子どもをたくさん産み,その労働力に頼っている農民にとっては非常に重い税制であったのです。
それまで比較的豊かだった里長たちのような一部特権階級は,自分の豊かさや立場を維持するために,一般庶民への税負担を重くした可能性もあります。
<政治・経済学的な視点>
一つの新しい制度を導入することにより,その効果が表れるまでは貧富の差が拡大することは,資本主義経済を急速に取り入れてきた今の中国を見ても分かります。
ただ,私は貧富の差が必ずしも悪いとは思いません。なぜなら,より豊かになりたい,成功者になりたいという気持ちが人々の活力(創意・工夫)に結びつき,活力の結果として経済や技術が発展することは良いことだと私は思うからです。
これは良い意味の競争であり,競争に勝った人がその他の人より多くの富を得ることはプロ競技の世界が典型例です。当然一般のビジネスの世界でも実態は競争がベースとなっているのではないでしょうか。
逆に,悪平等により,何の努力もせず一定の生活が保障される社会が活力ある良い社会だとは私は決して思いません。
<セーフティネットも必要>
しかし,そういった競争にすら参加できないで生活に苦しんでいる人々が存在するのも事実です。その人たちの多くは怠けものではないのです。身体的な障害や持病がある,諸般の事情で教育を受けたくても受けられなかった,悪意をもった人間に騙され借金を背負ってしまった,間違ったアドバイスを信じ自分の進路や人生設計を見誤ったような人たちなどです。
このような人たちが現実に居ることを認識し,その人たちにも競争に参加できるチャンスを与えることが政治には必要だと私は思います。衆議院選挙が近づく昨今,私は適正で活性化した競争社会を維持しつつも,それに参加できない人が居たら,励まし,その人なりのチャンスを与え,そのような人たちの希望と活力をも支える庶民感覚を十分もった政党を支持したいと思うのです。 (「さ」で始まる難読漢字に続く)
扱く(こく)…しごく。しごいて掻き落とす。
凝し(こごし)…ごつごつしている。険しい。
幾許(こぎた,ここだ,ここば)…こんなに多く。こんなに甚だしく。
悸く(こころつごく)…心がおどる。動悸がする。
甑(こしき)…米や芋などを蒸すのに用いる器
去年(こぞ)…昨年
木末(こぬれ)…木木の若い枝先
蟋蟀(こほろぎ)…コオロギ
肥人(こまひと)…九州球磨地方の人
木群(こむら)…木が群がり茂った所
薦(こも)…マコモ
臥やす(こやす)…横になる、休むの尊敬語
嘖らる(こらる)…怒られる。叱られる。
樵る(こる)…木を伐る。きこる。伐採する。
さて,次は山上憶良が詠んだ有名な長歌・貧窮問答歌で甑(こしき)が出てくる部分です。
~竈には火気吹き立てず 甑には蜘蛛の巣かきて 飯炊くことも忘れて~(5-892)
<~かまどにはほきふきたてず こしきにはくものすかきて いひかしくこともわすれ~>
<<~竈には火をいれることもなく,甑には蜘蛛の巣が張って,ご飯を炊くことも忘れ~>>
憶良はこの和歌で「甑は使われず蜘蛛の巣が張っている」などの表現を使い,暖かいご飯を炊いて食べることがずっとできず,飢えをしのいでいる一家の苦しい状況を具体的に示しています。
さらに,この長歌の最後の部分では戸籍を管理している里長が,このような暮らしを余儀なくされている家族にも「短いものをさらに切り刻むように」容赦なく税の取り立てを行うことが詠われています。
当時の大和政権は,日本が諸外国(中国,朝鮮半島など)に負けない強い国にするため,中央集権体制である中国の律令制度を急速に導入しようとしました。明治維新と似ている部分もあるのかもしれません。
その体制を維持するために人頭税賦課を徴収し,その財を基に多くの官僚や軍隊を抱え,政(まつりごと)や国防に専念できるようにしたのです。
しかし,律令制度が完成し,庶民の生活を豊かにするには時間を要します。その間,多くの人には先に税が負担となります。
また一見公平のように見える人頭税賦課は,子どもをたくさん産み,その労働力に頼っている農民にとっては非常に重い税制であったのです。
それまで比較的豊かだった里長たちのような一部特権階級は,自分の豊かさや立場を維持するために,一般庶民への税負担を重くした可能性もあります。
<政治・経済学的な視点>
一つの新しい制度を導入することにより,その効果が表れるまでは貧富の差が拡大することは,資本主義経済を急速に取り入れてきた今の中国を見ても分かります。
ただ,私は貧富の差が必ずしも悪いとは思いません。なぜなら,より豊かになりたい,成功者になりたいという気持ちが人々の活力(創意・工夫)に結びつき,活力の結果として経済や技術が発展することは良いことだと私は思うからです。
これは良い意味の競争であり,競争に勝った人がその他の人より多くの富を得ることはプロ競技の世界が典型例です。当然一般のビジネスの世界でも実態は競争がベースとなっているのではないでしょうか。
逆に,悪平等により,何の努力もせず一定の生活が保障される社会が活力ある良い社会だとは私は決して思いません。
<セーフティネットも必要>
しかし,そういった競争にすら参加できないで生活に苦しんでいる人々が存在するのも事実です。その人たちの多くは怠けものではないのです。身体的な障害や持病がある,諸般の事情で教育を受けたくても受けられなかった,悪意をもった人間に騙され借金を背負ってしまった,間違ったアドバイスを信じ自分の進路や人生設計を見誤ったような人たちなどです。
このような人たちが現実に居ることを認識し,その人たちにも競争に参加できるチャンスを与えることが政治には必要だと私は思います。衆議院選挙が近づく昨今,私は適正で活性化した競争社会を維持しつつも,それに参加できない人が居たら,励まし,その人なりのチャンスを与え,そのような人たちの希望と活力をも支える庶民感覚を十分もった政党を支持したいと思うのです。 (「さ」で始まる難読漢字に続く)
2009年8月10日月曜日
万葉集で難読漢字を紐解く(け~)
引き続き,「け」で始まる難読漢字を万葉集に出てくることばで拾ってみました(地名は除きます)
蓋し(けだし)…まさしく。ほんとうに。もしや。ひょっとしたら。
梳る(けづる)…くしけずる。
日並ぶ(けならぶ)…日数を重ねる。
異に(けに)…他よりすぐれて、ひどく。
鳧(けり)…チドリ科の渡り鳥。鳴き声が「けりり」と聞こえることが名前の由来らしい。
次は,梳る(けづる)が出てくる詠み人知らずの短歌です。
朝寝髪我れは梳らじ うるはしき君が手枕 触れてしものを(11-2578)
<あさねがみわれはけづらじ うるはしききみがたまくら ふれてしものを>
<<朝,寝起きの乱れた髪を私は梳らないでおきます。だって,大好きなあなたの手枕に触れた髪ですから>>
この和歌,作者が男性か女性か分かりません。
次の和歌のように当時「手枕を交わす」という言葉があり,手枕は常に男性がするものとは限らないと言えるからです。
遠妻と 手枕交へて寝たる夜は 鶏がねな鳴き 明けば明けぬとも(10-2021)
<とおつまと たまくらかへてねたるよは とりがねななきあけばあけぬと>
<<今度いつ逢えるか分からない貴女と手枕を互いにしつつ共寝をした夜は鶏よ鳴いてくれないで,夜が明けても>>
ただ,「梳らじ」の和歌は,髪に対する思い入れの強さが古今変わらないとするとやはり女性の和歌だと私は思いたいのです。
さて,江戸時代人気の高い花魁(おいらん)たちは,この和歌を達筆の書にして店の者を通じ,一夜を過ごした上客に渡したのかもしれません。
渡された客は「また来て指名したい」と思ったに違いありません。ちなみに,私の場合は意思が強いですから,この程度では動かされませんがね。
天の川「たびとはん。あんたの甲斐性やったら客にもなれまへんで~。」
また出てきたな「天の川」め。少しは言い方を気をつけろ! (「こ」で始まる難読漢字に続く)
蓋し(けだし)…まさしく。ほんとうに。もしや。ひょっとしたら。
梳る(けづる)…くしけずる。
日並ぶ(けならぶ)…日数を重ねる。
異に(けに)…他よりすぐれて、ひどく。
鳧(けり)…チドリ科の渡り鳥。鳴き声が「けりり」と聞こえることが名前の由来らしい。
次は,梳る(けづる)が出てくる詠み人知らずの短歌です。
朝寝髪我れは梳らじ うるはしき君が手枕 触れてしものを(11-2578)
<あさねがみわれはけづらじ うるはしききみがたまくら ふれてしものを>
<<朝,寝起きの乱れた髪を私は梳らないでおきます。だって,大好きなあなたの手枕に触れた髪ですから>>
この和歌,作者が男性か女性か分かりません。
次の和歌のように当時「手枕を交わす」という言葉があり,手枕は常に男性がするものとは限らないと言えるからです。
遠妻と 手枕交へて寝たる夜は 鶏がねな鳴き 明けば明けぬとも(10-2021)
<とおつまと たまくらかへてねたるよは とりがねななきあけばあけぬと>
<<今度いつ逢えるか分からない貴女と手枕を互いにしつつ共寝をした夜は鶏よ鳴いてくれないで,夜が明けても>>
ただ,「梳らじ」の和歌は,髪に対する思い入れの強さが古今変わらないとするとやはり女性の和歌だと私は思いたいのです。
さて,江戸時代人気の高い花魁(おいらん)たちは,この和歌を達筆の書にして店の者を通じ,一夜を過ごした上客に渡したのかもしれません。
渡された客は「また来て指名したい」と思ったに違いありません。ちなみに,私の場合は意思が強いですから,この程度では動かされませんがね。
天の川「たびとはん。あんたの甲斐性やったら客にもなれまへんで~。」
また出てきたな「天の川」め。少しは言い方を気をつけろ! (「こ」で始まる難読漢字に続く)
2009年8月7日金曜日
万葉集で難読漢字を紐解く(く~)
引き続き,「く」で始まる難読漢字を万葉集に出てくることばで拾ってみました(地名は除きます)
消(く)…消す。
裹(くぐつ)…莎草(くぐ)で編んだ袋。藻または貝などを入れるのに用いる。
釧(くしろ)…装身具の腕輪、ひじまき。
奇し(くすし)…不思議である。人知では計り知れない。
腐す(くたす)…くさらせる。だめにする。
降たち(くたち)…末になること。夕暮れ。夜が次第に更けること。
隈廻(くまみ)…曲がりかど。
枢(くる)…扉の端の上下につけた突起を框(かまち)の穴に差し込んで開閉させるための装置。くるる。
反転(くるべき)…糸を繰る道具。
次の和歌は,志貴皇子の子である湯原王が反転(くるべき)を詠んだ和歌です。
吾妹子に恋ひて乱れば 反転に懸けて寄さむと 余が恋ひそめし(4-642)
<わぎもこにこひてみだれば くるべきにかけてよさんむと あがこひそめし>
<<貴女に恋して心が乱れたら 糸車に掛けて依り合わせればよいと思って 僕は貴女を恋し始めたのです(でも,簡単には僕の心の乱れは依り合わす(治す)ことができません)>>
この和歌は,湯原王が新しく交際を始めてしばらくたった娘子との間でやり取りした12首の相聞歌の最後の和歌です。
この娘子が誰で,その後湯原王と娘子の恋愛がどうなったのかは不明です。
この時点で湯原王にはすでに正室がいたようです。
娘子を側室にしたいと考えているのか,単なる浮気相手なのかも不明ですが,次のお互いが湯原王の正室を意識した和歌のやり取り部分は,なかなか見応えがあります。
家にして 見れど飽かぬを 草枕 旅にも妻と あるが羨しさ(4-634)
<いえにしてみれどあかぬを くさまくらたびにもつまと あるがともしさ>
<<お宅ではいつも美しく,そして旅先でもいつもご一緒の奥様をお持ちのあなた様が羨ましいですこと>>
草枕旅には妻は率たれども 櫛笥のうちの玉をこそ思へ(4-635)
<くさまくらたびにはつまはゐたれども くしげのうちのたまをこそおもへ>
<<旅にいつも妻は一緒にいるけれど,宝石箱の中の宝石のように美しい貴女だけをいつも思っているのですよ>>
娘子の鋭い一撃の和歌に,湯原王は防戦一方でなんとかやっと返歌をしたというように私には感じられます。
娘子の和歌では,湯原王の自分に対する本気度を確かめないという娘子の気持ちが強く感じられます。
皇族である湯原王が自分を単なる遊び相手思っているだけなら相手に対する思いも冷めて別れてしまうか,湯原王のことがどうしても好きなら自分に対して本気にさせるように仕向けるかのどちらかを選択する必要があるからでしょう。
娘子の気持ちが実際どうなのか知りたい方は,是非この12首の二人の相聞歌を見て分析してみてください。
ところで「正妻がいるのに別の女性を口説く湯原王は悪い」という倫理観や社会通念による見方がたしかにあります。
でも,そんなことを言うと源氏物語における光源氏の行動のほとんどすべては「悪い」ということになってします。
お互いの愛を確かめ合う表現力は,正規の夫婦間のような安定した関係では多分あまり進化せず,いわゆる「少しアブナイ関係」の方が気持ちを伝えあう努力を必死になって行い,表現力が進化していくのかもしれません。
ただ,そういった表現力の進化とは裏腹に「アブナイ関係」の進行結果がハッピーな結果となるかはまったく別の話です(念のため)。
渡辺淳一の小説「失楽園」の筋書きのようになることは,小説上二人だけの愛の深さの程度表わす比喩としては在りえても,実際起こったら決して誰も幸せにしないと私は思います。
おっと,1か月前の七夕に現れた天の川君からメッセージがきました。
「たびとはん。あんたは『失楽園』の主人公久木みたいなお金や時間はないさかい,そんなことぜ~んぜん心配せ~へんかて大丈夫とちゃう?」 (「け」で始まる難読漢字に続く)
消(く)…消す。
裹(くぐつ)…莎草(くぐ)で編んだ袋。藻または貝などを入れるのに用いる。
釧(くしろ)…装身具の腕輪、ひじまき。
奇し(くすし)…不思議である。人知では計り知れない。
腐す(くたす)…くさらせる。だめにする。
降たち(くたち)…末になること。夕暮れ。夜が次第に更けること。
隈廻(くまみ)…曲がりかど。
枢(くる)…扉の端の上下につけた突起を框(かまち)の穴に差し込んで開閉させるための装置。くるる。
反転(くるべき)…糸を繰る道具。
次の和歌は,志貴皇子の子である湯原王が反転(くるべき)を詠んだ和歌です。
吾妹子に恋ひて乱れば 反転に懸けて寄さむと 余が恋ひそめし(4-642)
<わぎもこにこひてみだれば くるべきにかけてよさんむと あがこひそめし>
<<貴女に恋して心が乱れたら 糸車に掛けて依り合わせればよいと思って 僕は貴女を恋し始めたのです(でも,簡単には僕の心の乱れは依り合わす(治す)ことができません)>>
この和歌は,湯原王が新しく交際を始めてしばらくたった娘子との間でやり取りした12首の相聞歌の最後の和歌です。
この娘子が誰で,その後湯原王と娘子の恋愛がどうなったのかは不明です。
この時点で湯原王にはすでに正室がいたようです。
娘子を側室にしたいと考えているのか,単なる浮気相手なのかも不明ですが,次のお互いが湯原王の正室を意識した和歌のやり取り部分は,なかなか見応えがあります。
家にして 見れど飽かぬを 草枕 旅にも妻と あるが羨しさ(4-634)
<いえにしてみれどあかぬを くさまくらたびにもつまと あるがともしさ>
<<お宅ではいつも美しく,そして旅先でもいつもご一緒の奥様をお持ちのあなた様が羨ましいですこと>>
草枕旅には妻は率たれども 櫛笥のうちの玉をこそ思へ(4-635)
<くさまくらたびにはつまはゐたれども くしげのうちのたまをこそおもへ>
<<旅にいつも妻は一緒にいるけれど,宝石箱の中の宝石のように美しい貴女だけをいつも思っているのですよ>>
娘子の鋭い一撃の和歌に,湯原王は防戦一方でなんとかやっと返歌をしたというように私には感じられます。
娘子の和歌では,湯原王の自分に対する本気度を確かめないという娘子の気持ちが強く感じられます。
皇族である湯原王が自分を単なる遊び相手思っているだけなら相手に対する思いも冷めて別れてしまうか,湯原王のことがどうしても好きなら自分に対して本気にさせるように仕向けるかのどちらかを選択する必要があるからでしょう。
娘子の気持ちが実際どうなのか知りたい方は,是非この12首の二人の相聞歌を見て分析してみてください。
ところで「正妻がいるのに別の女性を口説く湯原王は悪い」という倫理観や社会通念による見方がたしかにあります。
でも,そんなことを言うと源氏物語における光源氏の行動のほとんどすべては「悪い」ということになってします。
お互いの愛を確かめ合う表現力は,正規の夫婦間のような安定した関係では多分あまり進化せず,いわゆる「少しアブナイ関係」の方が気持ちを伝えあう努力を必死になって行い,表現力が進化していくのかもしれません。
ただ,そういった表現力の進化とは裏腹に「アブナイ関係」の進行結果がハッピーな結果となるかはまったく別の話です(念のため)。
渡辺淳一の小説「失楽園」の筋書きのようになることは,小説上二人だけの愛の深さの程度表わす比喩としては在りえても,実際起こったら決して誰も幸せにしないと私は思います。
おっと,1か月前の七夕に現れた天の川君からメッセージがきました。
「たびとはん。あんたは『失楽園』の主人公久木みたいなお金や時間はないさかい,そんなことぜ~んぜん心配せ~へんかて大丈夫とちゃう?」 (「け」で始まる難読漢字に続く)
登録:
投稿 (Atom)