2018年6月14日木曜日

続難読漢字シリーズ(29)…黄楊(つげ)

今回は「黄楊(つげ)」について万葉集をみていきます。「黄楊」は植物の名前です。小さな丸みのある葉の常緑樹で。丸い形に剪定して庭木などにします。私の庭にもまだ幼木ですが植えています。
ツゲは漢字で「柘植」とも書きますが,万葉集の万葉仮名ではツゲを詠んだすべての和歌で「黄楊」が使われています。「柘植」は三重県などに地名としてありますので読める人も結構いらっしゃるかも知れませんが,「黄楊」はなかなかの難読漢字でしょうか。
さて,最初に紹介するのは,播磨地方(今の兵庫県)に着任していた役人の石川大夫が京に選任され(帰任),地元を離れるときに地元の娘子が別れを惜しんで贈ったされる短歌です。

君なくはなぞ身装はむ櫛笥なる黄楊の小櫛も取らむとも思はず(9-1777)
<きみなくはなぞみよそはむ くしげなるつげのをぐしも とらむともおもはず>
<<あなた様が京に帰られたたら,私は身を装いましょうか。化粧箱の黄楊の櫛を取ろうとさえ思いませんわ>>

黄楊の幹は非常に硬く,櫛の歯のような細い切り込み加工をしても,歯が折れたりすることがすくなく,万葉時代から櫛の材料として非常に重宝されていたのです。高級なツゲの櫛ももう使う必要なくなりましたという歌意でしょう。
なお,今でも国産のツゲの木で作った櫛は,最高級品で2万円以上していそうですが,それでも購入して利用する人がいるようです。
次に紹介するのは,柿本人麻呂歌集に出ていたという,黄楊の枕を詠んだ短歌です。

夕されば床の辺去らぬ黄楊枕何しか汝れが主待ちかたき(11-2503)
<ゆふさればとこのへさらぬ つげまくらなにしかなれが ぬしまちかたき>
<<夕方になると夜床の傍らから離しはしないぞ黄楊の枕よ。何か彼女を夢に見させておくれ>>

黄楊の木を細かくしたものの角を削り丸くしたチップを枕に入れると,頭に当てて寝返りをするとサラサラと音がして気持ちが良かったのかも知れませんね。今でも,木片やプラスチックのチップ,そば殻などを枕の中に入れたものが売られています。
最後に紹介するのは,やはり黄楊の櫛に関するものですが,黄楊の産地が分かるものです。

朝月の日向黄楊櫛古りぬれど何しか君が見れど飽かざらむ(11-2500)
<あさづきのひむかつげくし ふりぬれどなにしかきみが みれどあかざらむ>
<<日向の黄楊櫛は使い古して古くなりましたが,どうしてあなたはいつ見ても見飽きないのでしょう>>

日向(ひむか)はどこの場所か私は知りませんが,良い櫛の材料となる黄楊の木がたくさん生えていて,日向黄楊櫛は万葉時代長持ちする櫛の高級ブランドだったのかも知れません。
(続難読漢字シリーズ(30)につづく)

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