2018年2月27日火曜日

本ブログ開始10年目突入スペシャル…病は突然やってくる

難読漢字シリーズを中断し「本ブログ開始10年目スペシャル」をお送りします。早いもので,このブログを開始して10年目に入りました。
この9年間には,私にとっていろんなことがありましたが,万葉集の奥深さと,現代に通じるヒトの感性の多様さを感じながら続けることができました。
最近は,海外からのアクセス(特にヨーロッパ)のほうが多くなっており,海外に住む日本人の方からのアクセスや,翻訳ソフトが良くなったことと日本ブームの影響もあるのかなと思います。
さて,人間が生きていくうえで「生老病死」という苦しみが襲ってくることを以前このブログでも書いたことがあります。
実は,私今そのうちの「病」の苦しみと闘っています。昨年,11月ころまでは,私は健康そのものでしたが,急な体調不良が発生し,いくつかの医療機関を受診した結果,現在は東京都心の大学病院に入院中です。
緊急手術を受け,その後の状況は,一応安定していますが,今後の治療効果を見極めながら,場合によっては強い副作用も覚悟すべき闘病が続きそうです。
それでも,このブログ満10年までに500投稿を目指していきたいと考えています。

古人のたまへしめたる吉備の酒病めばすべなし貫簀賜らむ(4-554)
<ふるひとのたまへしめたるきびのさけやめばすべなしぬきすたばらむ>
<<賜りいただいた昔から飲まれているという吉備の酒も,病には効きませんね,私の辺りを隠す簀をくださいな>>

この短歌は,奈良の京で病に伏している丹生女王(にふのおほきみ)が,大宰府にいる大伴旅人から送られてきた吉備(今の瀬戸内地方の一部)の酒に対して返信したものです。
私の解釈では「病人に酒を送ってきて,どうすんねん?」という内容ですが,真に受けてクレームの短歌だと思う人はいないでしょう。
無類の酒付きの旅人は「酒は百薬の長」ときっと思っているのでしょう。今も「養〇酒」のように,薬用酒も製品として販売されていますしね。
ただ,丹生女王は,旅人にあまり酒を飲みすぎないように注意するようにと返したのだのだろうというのが私の解釈です。
そういえば,私が入院している部屋も相部屋で,それぞれのベッドはカーテンで仕切られているだけですが,それがあるだけで心が落ち着きます。
お酒は,お正月にビールを少し飲んだ以降,私は飲んでいません(当然,病院では絶対飲めませんが)。
それでも,今私はお酒が無性に飲みたいとは思いません。「たびと」と「旅人」の違いですかね。
まとまらないスペシャル議事となりましたが,今回はとりあえずここまで。
(続難読漢字シリーズ(8)につづく)

2018年2月5日月曜日

続難読漢字シリーズ(7)… 畏し(かしこし)

今回は,畏し(かしこし)について,万葉集を見ていきます。「畏」という漢字は「畏怖(いふ)」で出てきますので,見たことはある人は多いかもしれません。
最初は,羇旅の短歌からです。

大海の波は畏ししかれども神を斎ひて舟出せばいかに(7-1232)
<おほうみのなみはかしこし しかれどもかみをいはひてふなでせばいかに>
<<大海の波は怖ろしいけれど,海神に無事を祈って船出をすればどうだろう>>

作者は,何日も海が凪ぐのを待っている船に乗っている旅人なのでしょう。
待ちくたびれて,海神に祈れば行けるのではとイライラしながら作ったのでしょうか。
次も羇旅の短歌ですが,女性作と言われています。

海の底沖は畏し礒廻より漕ぎ廻みいませ月は経ぬとも(12-3199)
<わたのそこおきはかしこし いそみよりこぎたみいませ つきはへぬとも>
<<海の深い沖は恐ろしいので,磯伝いに漕ぎう回してくださいませ。多少月数がかかっても>>

女性らしい危険を避けたい気持ちを素直に詠んだと私は感じます。
スミマセン。「女性らしい」というのは,あくまで私の勝手な感覚です。こんなことに気を付けなければいけない時代になったのですね。
最後は,ガラッと変わって恋愛の短歌です。

妹と言はばなめし畏ししかすがに懸けまく欲しき言にあるかも(12-2915)
<いもといはばなめしかしこし しかすがにかけまくほしき ことにあるかも>
<<彼女を最愛の恋人と言ったら無作法で,恐れ多い。そうはいうものの本当にそう言ってみたいことだ>>

律令制度の階級が違う家間の恋愛には,ハードルがあったかもしれません。
この男性は階級がかなり上の家の女性を好きになったのでしょう。
しょうがないですね。人を好きになるのに家柄などは関係ないですからね。
万葉集は律令制度の良さを認めながらも,制度がもつさまざまな人への影響を見逃さず残しているところに,編集の意図の多様性を強く感じ,また凄さも感じる私です。
(続難読漢字シリーズ(8)につづく)